レポート

福武ハウス アジア・アート・プラットフォーム2013

美術は人と土地をつなげるだけではなく、人と人をつなぐものでした。
この美術の力によって、かつては瀬戸内海という日本列島のコブクロのような豊かで美しい海が、近代化のなかでの都市偏重、海と水の貴重さを忘却してきたことを省み、お年寄りたちの元気を取り戻すことができたのです。この海のつながりをアジアのなかで広げていく大切さと、海のもつ多様性と自然への畏れと感謝の思いをもち、人がそれぞれの場で生きる尊さを感じながら、美術と、その集落にある食を通し協働する、そんな美術が古くからもっていた働きを最小で最重要な単位である集落で実現すること、それが福武ハウスの望むものだと思います。70億人が住む地球のなかで、美術は一人一人が自然とつながっていることを自覚できる唯一のものだといってよいと思います。地球環境が危機に瀕し、文明の方向が問われていくなかで、美術がもつ働きは極めて多く、大切なものになっています。古来、美術は人類の親しい友だちでした。一人ずつの自然とのつながりが、土地と時間のなかで鍛えられた集落という単位を通し、人類の移動と広がりを分かち持つアジアの海を媒介として動き出した福武ハウスに期待し、できることを少しずつ始めたいと思うのです。(北川フラム)


葺田パヴィリオン

葺田パヴィリオン

設計主旨|西沢立衛
小豆島・福田小学校体育館隣の神社境内に計画されたパヴィリオンである。構成としては、カーブした二枚の鋼板が重なり合って、端部が互いに溶接されることで、お互いにお互いを拘束し合って形が成り立つ、というものだ。床の鋼板は屋根鋼板の存在によって開いてゆくのが抑えられ、屋根鋼板の方は床鋼板によって支えられつつ、真ん中でたわむ。二枚の鋼板の間に生まれた空間が客席でもあり、境内へと繋がる子どもの遊び場でもある。恒久建築だが、基礎はなく、そのまま持って来て置いただけというような、簡素な配置となっている。

構造設計主旨|金田充弘
3次元的な形状を持つこの小建築の構造は厚さの異なる2枚の鋼板からできている。上側の6ミリ厚の高強度鋼板は、カテナリー状の膜のように重力と張力のバランスで形態が生まれ、下側の19ミリ厚の鋼板は紙のように一方向に曲げることによって形態をつくり出している。平面的な大きさと求められた形態に対して、鋼板の厚みを慎重に選択し、施工手順を考慮した初期形状と最終形状の関係を収斂させた。素材の構造特性とスケール操作により、合理的にこの形態が生み出された。素材の硬さ柔らかさはスケールとともに決まるものであり、また感覚的なものでもある。長さ1メートルの鉄の棒はほとんど変形しない、硬いと感じるモノだが、同じ鋼棒の長さが10メートルになれば非常に大きく変形する柔らかいモノと感じるだろう。同じように厚さ方向のスケールも硬さ柔らかさに累乗で効く効果を持つ。その硬さと柔らかさを活かしてシンプルに形態を作り出すことを考えた。

葺田パヴィリオン
葺田パヴィリオン
葺田パヴィリオン


福武ハウス(旧校舎)

福武ハウス 共同展

私たちはグローバル化にどのように立ち向かうのか

急速に進むグローバル化に、私たちはどのように向き合うのか。地域の文化やアイデンティティといったものが崩壊しつつある現在、忘れ去られてしまったものの中にこそ、大切にするべき価値があるのではないか̶。福武ハウス アジア・アート・プラットフォームのキックオフとして最初のプロジェクトとなる共同展は、このテーマのもとに開催された。

アジアという大きな枠組みの中に普遍的な要素を感じ取ることを目的として、異なる文化背景を持つ7つの地域の団体がパートナーとして参加した。各団体が選出したキュレーターやアーティストが瀬戸内海にある小さな集落に滞在し、ともに生活し、作品制作のプロセスの中で関わり合うなかで、感覚の交換、問題意識への共感を重ねながら、各地域と瀬戸内がそれぞれ抱える問題を取り上げ、普遍的なメッセージとした作品を、廃校となった旧福田小学校の教室に展開した。

いくつかの作品は、福田地区の住民と密に関わり、言葉だけではないコミュニケーションを通して制作され、住民は自らの言葉でその体験を鑑賞者へ語り伝えた。校舎という場所で、鑑賞者それぞれが、ある懐かしさを感じ、日本でもなく、西洋でもない、身近な地域=アジアへの共感と、様々に違う視点、解釈、表現を通して、課題とするべきものに向き合えた。

展覧会概要
夏|2013年7月20日(土)~9月1日(日)
秋|2013年10月5日(土)~11月4日(月・休)
※会期中無休
時間:9:00~17:00
鑑賞料金:¥500(15歳以下無料)
瀬戸内国際芸術祭2013 作品鑑賞パスポートにて一枚につき一回限り鑑賞可能。
※ガイドツアー:福田の住民による作品のコンセプトや制作中の体験談を織り交ぜた展覧会ガイドツアーが実施され。

ソウル・アートスペース・クムチョン Seoul Art Space Geumcheon(韓国)

ソウル・アートスペース・クムチョン
ソウル・アートスペース・クムチョン

アーティスト|チェ・ソン

1973年韓国生まれ。 ソウルの弘益大学で美術を専攻。ヨコハマトリエンナーレ2011年特別連携プログラム「新・港村~小さな未来都市」(2011年、横浜)に参加。第12回ソンウン・アート・アワード大賞受賞(2012年)。

作品タイトル|マゼンタ・ペインティング

2001年、韓国では口蹄疫が蔓延し、330万頭以上の豚が殺処分された。この作品は、このとき処分された家畜のシリアル番号を使った、巨大な単彩画である。畜殺場では一般に家畜に押される刻印に赤紫色(マゼンダ)が用いられる。この色を題材にした単彩画には、そうした悲しい背景がある。

香港アーツセンター Hong Kong Arts Center(香港)

ジャファ・ラム・ラム

アーティスト|ジャファ・ラム・ラム

彫刻家。香港中文大学にて美術学士号、美術修士号および教育専攻大学院修了。木箱の木材、古い家具、古布などリサイクル材を主に使用し、複数の技法を使って制作するサイトスペシフィックな巨大彫刻やインスタレーションが専門。作品は、地元の文化や歴史、時事に関連したさまざまな問題を題材にしたものが多い。現在は香港芸術学院上級講師。

ホ・クゥオン・ラウ

アーティスト|ホ・クゥオン・ラウ

香港を拠点に企業や地元NGOと活動するイラストレーター。作品は香港の生活環境に発想を得て、現実と超現実的なイメージを組み合わせ、社会に対する自らの思いを表現したものが多く見られる。

Home
Home

作品タイトル | Home

作品は旧福田小学校の玄関入口から音楽室まで展開された。ペインティングが私たちを音楽室へと導き、たどり着いた音楽室にはリサイクル傘を使った北斗七星の星図が描かれている。その星空には旧福田小学校の校歌を歌う福田にまつわる人びと(高齢者や子どもたち、故郷を離れた人びとなど)の映像を投影。作品は、郷愁とともに「絆」復活の願いを呼び起こし、開発や発展がアジアにもたらしたさまざまな影響に思いをめぐらせてほしいというメッセージが込められた。

台灣歷史資源經理學會 nstitute for Historical Resources Management(台湾)

ウェイリン・ヤン

アーティスト|ウェイリン・ヤン

現在は国立台南芸術大学材質創作設計系講師。Nature Indigo in Taiwan Seasons Study Association理事。国立台南芸術大学(台湾)応用芸術研究所美術修士。東海大学(台湾)中国文学文学士号。第4回国家工芸賞一等賞(2004年、台湾)

瀬戸内海の思い出
瀬戸内海の思い出

作品タイトル|瀬戸内海の思い出

島々の呼ぶ声、「よその土地で生きること」へのあこがれ、人びととのつながり、今も残る食べ物の風味、瀬戸内海のすべてを思い出す

ジム・トンプソン・アートセンター Jim Thompson Art Center (タイ)

ニパン・オラニウェート

アーティスト|ニパン・オラニウェート

1962年バンコク生まれ。現在、バンコクを拠点に活動中。タイ東北部のチャイヤプーム県で幼少期を過ごした後、バンコクのシラパコーン大学でグラフィックアーツを学ぶ。その後文部省の給付奨学金を得て、東京藝術大学大学院版画学科修士課程に留学、1993年卒業。横浜美術館(1996年、横浜)、オサージュ・ギャラリー観塘(2009年、香港)、100トンソン・ギャラリー(2012年、バンコク)などで個展を開催。また、第52回ベネチア・ビエンナーレ、タイ館(2007、イタリア)、釜山ビエンナーレ(2008年、韓国)、
ソウル市立美術館シティ・ネット・アジア2011(2011年、韓国)、関渡ビエンナーレ2012(2012年、台湾)、第18回シドニー・ビエンナーレ(2012年、オーストラリア)など国際展覧会にも出展。

思い出が彼らを連れ戻してくれる
思い出が彼らを連れ戻してくれる

作品タイトル|思い出が彼らを連れ戻してくれる

小豆島を舞台に新しく赴任した女性教師と12人の生徒の触れ合いを描いた映画「二十四の瞳」から発想を得た作品。映画では「ヒューマニズム」「誠意」「自然と平和を愛する心」を大切にする日本人の考え方や繊細な国民性が綿密に描かれており、これに心動かされた作家は、床面インスタレーション、動画、テキストの3つのエレメントで構成したインスタレーションとして、「思い出」「希望」「将来のビジョン」について、小豆島福田地区の住民と対話をしながら、本作品を制作した。

ザ・サブステーション The Substation (シンガポール)

グレース・タン

アーティスト|グレース・タン

ファッションデザインを学んだグレース・タンの作品は、服づくりを学ぶ過程で身につけたメソッドが制作のベースになっている。現在の彼女の表現はファッションの枠を超え、インスタレーションや空間建造物へと拡張している。タンはこれまで、シンガポール美術館(2013年)、総合芸術文化施設「エスペラネード」(2012年)、シンガポール陸上交通庁からのコミッションのほか、愛知万博(2005)、ベネチア・ビエンナーレ(建築)、ロンドン・デザイン・ウィーク、ステート・オブ・デザイン・メルボルンにシンガポール代表として参加。シンガポール大統領デザイン賞受賞(2012年)。

静けさの中で
静けさの中で

作品タイトル|静けさの中で

およそ200万個の、ループピン(ポリプロピレン素材の結束バンド)で作った彫刻で、旧福田小学校の教室にある机と椅子を包み込む作品。その硬い表面を肥沃な「土壌」に変え、旧福田小学校の教室を「庭」に変容させる。ループピンは一般的で実用的なデザインと機能を兼ね備えた、衣服のブランドラベルや値札に使われる単純な素材だが、大量に集まると力強い表現が生まれる。ループピンは、シンガポールと小豆島のコミュニティを結ぶ「種」となり、発芽し、ポリプロピレンの「植物」として成長し、新しい風景が生まれる。「庭」作りに集まった人びとの声が聞こえ、彼らの夢が見えてくる。世代や背景の異なる人びとをつなぐ。

チェメティ・アート・ハウス Cemeti Art House (インドネシア)

イワン・アーメット

アーティスト|イワン・アーメット

1975年インドネシア、西ジャワ州生まれ、現在ジャカルタにて活動中。ジャカルタ芸術大学でグラフィックデザインを学ぶ。2003年にティタ・サリナと共同で、アートプロジェクトをスタート。クライアントからの依頼に応えるデザインハブ「アーメット・サリナ」を創設したほか、“公共の空間と人間の経験”をテーマとしたビジュアルアートとデザインを融合したプロジェクトを展開している。また、インドネシア国内外で展覧会を行い、ユーモアあふれるインターフェレンス・プロジェクトで高い評価を受けている。

脆弱な泡
脆弱な泡

作品タイトル|脆弱な泡

インドネシア群島では、地元特有の文化に根ざした生活様式が村落に生き続けており、本来、それは強力な都市の構築にとって戦略的支柱となるものだ。しかし経済成長が促進されるなかで、村落は置き去りにされ、農村地域はますます縮小し、優れた人材は都市部に吸収されてしまっている。イワン・アーメットは、インドネシア西ジャワ島にあるジャティスラ村と小豆島福田地区でリサーチを行い、さまざまな出来事のデータを収集した。それらを並列させ、旧福田小学校の教室に設置した巨大な風船にその映像を投影する。

アジアリンク Asialink (オーストラリア)

ジャクソン・スラタリー

アーティスト|ジャクソン・スラタリー

カナダのモントリオールとオーストラリアのメルボルンの2カ所に拠点を置き活動している。2004年にロイヤルメルボルン工科大学にて美術学士号(絵画専攻)を取得。細部描写に優れた二次元および三次元フォルムの水彩画で高い評価を得ている。2010年にはシドニーの現代美術館主催のプリマベーラ展に選抜され、2008年から2009年まではメルボルンのガートルード・コンテンポラリー・アート・スペーシーズのスタジオ・アーティストとして活動している。

彫刻の中のモニュメント
彫刻の中のモニュメント

作品タイトル|彫刻の中のモニュメント

島国であるオーストラリアは、小豆島と同じく、外からの影響を受けやすい環境にある。グローバル化が進むなか、昔からの伝統が失われつつある一方、新たな融合文化も生まれている。メルボルン在住のアーティスト、ジャクソン・スラタリーは、失われたもの、繁栄・成功しているもの、そして未来への希望を抱くものを浮き彫りにし、その共通性を探っていった。スラタリーは、旧福田小学校をひとつの彫刻ととらえ、機能をもたない形態を学校の目的と歴史に関連づけようと考えた。平面と立体の形成で水彩を用いることで、彼はモニュメントとしての旧福田小学校の現状を考えようとしたのである。


福田アジア食堂

ワークショップ

参加団体が推薦する食の専門家を講師として招いた食のワークショップを開催し、アジア各国の講師が地域を代表する家庭料理やその調理法を紹介した。ワークショップには、食堂のスタッフとなる福田・吉田地区の人びと約15名が参加し、参加者は各地の家庭料理を習いながら講師とともに料理を楽しみ、試食会も行なわれた。

ワークショップでは講師たちが自らの地域とアジアの食文化について語り、参加した住民の手を取りながら多彩な料理を教える姿が見られた。参加者も地元の伝統料理を持ち寄り、講師はその食材や調味料などについても熱心に質問をし、料理を通して福田地区とアジア各地のユニークな交流が生まれた。

福田アジア食堂
福田アジア食堂
福田アジア食堂
福田アジア食堂

オープン

ワークショップで考案したメニュー以外にも、仕入の状況で変わる食材とスタッフの創意工夫から日々新しいメニューも生まれていった。福田アジア食堂の運営は、主婦を中心とした福田・吉田地区住民が担い、ローテーションを組んで夏・秋会期の計70日を運営、4000食以上の定食を提供した。瀬戸内国際芸術祭を巡る来訪者や地元小豆島の人びと、福田小学校の卒業生のほか、アジアの参加国からツアーで訪れる人なども来店し、葺田の森に新しい味との出会いや旧友との再会を喜ぶ声が響いた。

福田アジア食堂
福田アジア食堂
福田アジア食堂
福田アジア食堂


イベント

オープニングシンポジウム

期日:2013年7月22日(月)
会場:福武ハウス(旧福田小学校体育館)
第1部:福武總一郎(瀬戸内国際芸術祭総合プロデューサー/福武財団会長)、イ・ヨンチョル(アジアカルチャーコンプレックス総合芸術監督、韓国)、北川フラム(瀬戸内国際
芸術祭総合ディレクター)、池田修(BankART1929ディレクター)、西堀隆史(アーティスト)、林舜龍(アーティスト、台湾)
第2部:アジア・アート・プラットフォーム参加7団体によるプレゼンテーション

このシンポジウムは、アジアのさまざまな国が集まってひとつの集落を通してものを考えようというもの。世界のすべての場所はそこで生活してきた人がいる以上等価であると考え、それぞれの特徴を追求していけばいくほど逆にその土地で世界とつながり、世界の風景を表していくことになるだろう。(北川フラム)

オープニングシンポジウム
オープニングシンポジウム
オープニングシンポジウム


事業概要

名称 福武ハウス-アジア・アート・プラットフォーム
開催期間 夏:2013 年 7 月 20 日(土)~9 月 1 日(日) 44 日間
秋:2013 年 10 月 5 日(土)~11 月 4 日(月・休) 31 日間
合計75日間
時間 11:00~17:00
会場 香川県小豆郡小豆島町福田甲718-1
旧小豆島町立福田小学校 校舎、体育館、葺田八幡神社境内(一部)
テーマ 私たちはグローバル化にどのように立ち向かうのか
主催 公益財団法人 福武財団 / 小豆島町 / 福田地区自治連合会
ディレクター 北川フラム(瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター)
運営 福田地区自治連合会
葺田パヴィリオン設計 西沢立衛
経緯

2013年

1月
参加団体決定
2月21-23日
第1回準備会議@直島、小豆島
※参加団体によるミーティングと現地訪問。夏のオープンに向けた企画の検討。
3月末
各団体より展示案提出。
4月初
レストランおよび校舎改修条件を西沢氏に提出
4月末
レストランおよび校舎改修案の提示。調整。
5月初
各団体に校舎改修案を提示
展示案の調整
5月中
各団体より、シェフおよびメニューの提案
6月3日
第2回準備会議@小豆島
※各展示案のプレゼンテーションと調整
6月末
展覧会制作・設置開始
7月5日
食のワークショップ開始
7月10日
パビリオン竣工
7月17日
展覧会設置終了
7月18-19日
プレス・プレビュー
7月20日
オープニングツアー(伊吹島→小豆島→高松)
7月21日
バングラデシュ・シンポジウム @福武ハウス
7月22日
オープニングシンポジウム“アジア・アート・プラットフォーム構想をめぐって”
11月4日
芸術祭閉幕 展覧会撤去
総来館者数 16,698人
参考:瀬戸内国際芸術祭 来場者数 夏,秋会期計 807,354人

福武ハウス アジア・アート・プラットフォーム2013記録集

イワン・アーメット

2014年3月1日発行
発行 公益財団法人福武財団
デザイン 北川総貴[ヤング荘]
翻訳 リングァ・ギルド、現代企画室
編集 前田礼、熊谷靖成 [アートフロントギャラリー] / 江口奈緒 [現代企画室]

公益財団法人福武財団